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広島地方裁判所 平成元年(行ウ)13号 判決 1992年8月06日

広島県庄原市川手町一三一九番地

原告

有限会社三吉組

右代表者代表取締役

三吉敬三

右訴訟代理人弁護士

椎木緑司

広島県庄原市三日市町字下の原六六七番地の五

被告

庄原税務署長 浦部善教

右指定代理人

豊田耕輔

岡田克彦

伊藤敏彦

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長 杉山伸顕

右指定代理人

安友源六

井林英人

山根薫

被告両名指定代理人

大西嘉彦

主文

一  本件訴えのうち被告庄原税務署長が昭和六一年一二月二六日付けでした原告の昭和六〇年六月一日から昭和六一年五月三一日までの事業年度の法人税の修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余りの請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告庄原税務署長が昭和六一年一二月一六日付けでした原告の昭和六〇年六月一日から昭和六一年五月三一日までの事業年度(以下「昭和六一年五月期」という。)の法人税の修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  同被告が同日付けでした原告の昭和六一年五月期の法人税の更正、右更正に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

3  被告国税不服審判所長が平成元年四月二七日付けでした、原告の昭和六一年五月期の法人税につき被告庄原税務署長が昭和六一年一二月二六日付けでした修正申告に係る重加算税の賦課決定並びに更正、右更正に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁(被告庄原税務署長)

(一) 主文一項と同旨

(二) 同項掲記の訴えに係る部分の訴訟費用は原告の負担とする。

2  本案に対する答弁(被告両名)

主文二、三項と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、昭和六一年五月期の法人税について別表「課税処分経過表」の確定申告欄記載のとおり確定申告(以下「本件確定申告」という。)をし、次いで、同表の修正申告欄記載のとおり修正申告(以下「本件修正申告」という。)をしたところ、被告庄原税務署長は、同表の賦課決定欄記載のとおり右修正申告に伴って増加した法人税額につき過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をし、さらに、同表の更正欄記載のとおり更正(以下「本件更正」という。)し、右更正に伴って増加した法人税につき過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をした。

(二)  原告は、本件修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定並びに本件更正及び同更正に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を不服として、昭和六二年一月二二日、被告国税不服審判所長に対し、審査請求をし、また、本件修正申告に係る重加算税の賦課決定を不服として、同月二六日、被告庄原税務署長に対し異議申立てをしたところ、同被告から審査請求とすることについての同意を求める通知を受け、同年二月七日これに同意し、右異議申立ては、審査請求とみなされたが、被告国税不服審判所長は、平成元年四月二七日、右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

2(一)  原告は、本件確定申告に当たり、次の各金額をいずれも損金の額に算入して所得の金額を計算したところ、被告庄原税務署長は、右各損金算入を否認し、本件更正をした。

(1) 昭和六一年五月三一日(以下「事業年度末日」という。)の原告の役員議会において支給することが決定された従業員に対する昭和六一年五月期の決算賞与一二七七万円(以下「本件決算賞与」という。)

(2) 昭和六〇年八月三一日に開催された原告の臨時社員総会において支給する旨の決議がなされた原告の取締役三吉敬三(以下「敬三」という。)に対する退職給与四一三万〇五九七円

(3) 原告が大成企業株式会社(以下「大成企業」という。)から受領していた同社振出の合計三〇八万八七〇〇円の約束手形三通「以下「本件手形」という。)に係る債権の半額である一五四万四三五〇円

(二)  しかし、右各金額は、法人税法上、いずれも損金算入が認められるべきものであるから、本件更正は、右損金算入を否認した点において違法であり、したがって、また、本件更正に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定も違法である。

(三)  原告は、本件確定申告に当たり、原告が広島県庄原土木事務所(以下「庄原土木事務所」という。)から受注した道路改良工事のうち、昭和六〇年五月三一日(ただし、契約日は同月三〇日)に受注した工事(以下「本件本工事」という。)及び昭和六一年四月一〇日(ただし、契約日は同月九日)に受注した工事(以下「本件補修工事」といい、本件本工事と併せて「本件各工事」という。)については、未完成工事としてその工事高五一三一万五〇〇〇円を益金に算入していなかったが、本件修正申告は、右工事高その他を益金に加算したものであり、本件修正申告に係る重加算税は、本件修正申告のうち右工事高に対応する部分に対して賦課されたものである。

(四)  しかし、本件修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定は、いずれも加算税賦課決定の要件を欠くものであって、違法である。

(五)  本件裁決の違法

被告国税不服審判所長は、国税通則法(以下「通則法」という。)一一五条一項一号等の規定により、審査請求受理後三箇月以内に裁決をすべきであるのに、原告が審査請求をしてからいたずらに二年三箇月を経過した後の平成元年四月二八日に至って、申出事項を十分に審理することもなく、これを棄却するという不当な裁決をした。

3  よって、原告は、被告庄原税務署長に対し本件修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定並びに本件更正、同更正に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定の取消しを求め、被告国税不服審判所長に対し本件裁決の取消しを求める。

二  被告庄原税務署長本案前の主張

原告は、本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定に対して適法な不服申立てを経ていないから、本件訴えのうち、右賦課決定の取消しを求める部分は、通則法一一五条、行政事件訴訟法八条一項ただし書に照らし、不適法であり、却下されるべきである。

三  本案前の主張に対する認否及び反論

1  原本が本件修正申告に係る過少申告加算税賦課決定に対して不服申立てを経ていないことは否認する。原告は、請求原因1の(二)記載のとおり本件修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定全部について審査請求をしている。

2  仮に、そうでないとしても、過少申告加算税は、法人税申告に付帯するものであるから、過少申告加算税の賦課決定の取消しを求めるに当たっては、これにつき独立して厳密に異議申立て等の不服申立てを前置する必要はない。

3  また、本件修正申告にかかる過少申告加算税の賦課決定の取消訴訟については、通則法一一五条一項二号の規定により不服申立ての手続を経由しなくても適法である。

四  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1の(一)は認める。

(二)  同1の(二)のうち、原告が本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定につき審査請求をしたことは否認し、その余は認める。

2(一)  同2の(一)は認める(ただし、本件決算賞与及び本件退職給与の支給が原告主張のとおり決定、決議されたことは否認する。)。

(二)  同2の(二)は争う。

(三)  同(三)は認める。

(四)  同(四)は争う。

(五)  同(五)のうち、本件裁決が審査請求から二年三箇月ごの平成元年四月二八日になされたことは認めるが、その余は争う。

五  被告らの主張

(被告庄原税務署長)

1 本件更正の適法性

本件決算賞与、退職給与及び本件手形に係る債権については、以下述べるとおり、損金に算入することはできないのであって、右損金算入を否認した本件更正は、適法である。

(一) 本件決算賞与

原告は、事業年度末日の役員協議会において本件決算賞与の支給を決定したとして、本件確定申告においてこれを昭和六一年五月期の損金に計上した。

しかしながら、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入される費用は、当該事業年度終了の日までに債務の確定しているものであることを要する(法人税法二二条三項二号)。そして、一般に使用人に対する賞与は、被使用者側が雇用契約により当然に請求し得るものではなく、使用者側が各人別に支給額を決定し、それを被使用者側に通知した時に初めて被使用者側に債権が生じ、使用者側に債務が発生するものである。

しかるに、本件決算賞与は、昭和六一年五月期の決算の状況を見てその支給が決定されたものであり、また原告の関与税理士が昭和六一年六月二一日現在の資料に基づいて同月二三日に作成した同年五月三一日現在の試算表(以下「本件試算表」という。)には、本件決算賞与の額は、計上されていないのであったて、これらの事実からすると、原告が本件決算賞与の支給を決定した時期が事業年度末日ということはなく、本件試算表が作成された同年六月二三日以降にその支給が決定されたものである。また、本件決算賞与は、従業員に支給する旨の通知をしておらず、事業年度末日までに各従業員に対する支給額が決定していなかった。したがって、本件決算賞与は、事業年度末日までに債務として確定したものでなく、これは、原告が事業年度末日後に、利益調整を目的として昭和六一年六月一日から昭和六二年五月三一日までの事業年度(以下「昭和六二年五月期」という。)において支給を予定している夏期及び年末賞与の引き当てを本件決算賞与に仮装したものであって、これを昭和六一年五月期の損金に算入することは許されない。

(二) 本件退職給与

原告は、昭和六〇年八月三一日の社員総会において、原告の取締役を辞任した敬三に対し退職給与を四五〇万円以内で支給する旨の決議がなされ、右退職給与と原告の同人に対する貸付金、仮払金及び未収入金(以下「本件貸付金等」という。)とを相殺したとして、本件退職給与を昭和六一年五月期の損金に計上した。

しかしながら、退職給与についても、当該事業年度終了の日までに債務が確定している場合に損金の額に算入すべきものであり、法人税法上、退職した役員に対する退職給与の損金算入の時期は、株主総会(社員総会)の決議等により、その額が具体的に確定した日の属する事業年度である。しかるに、本件退職給与は、社員総会決議による支給決定がなされていないから、事業年度末日までに債務として確定したものではなく、その実質は、原告が敬三に対して有している本件貸付金等を消去することにより、本件貸付金等相当額を本件退職給与として損金の額に算入したものにほかならない。

(三) 本件手形に係る債権

原告は、本件確定申告において、大成企業から受領していた同社振出の本件手形に係る債権の五〇パーセントに相当する金額を債権償却特別勘定の勘定の設定により損金に算入したが、以下述べるとおり、右債権については、債権償却特別勘定の設定により損金経理をすることはできないし、また、貸倒損失として損金の額に算入することもできない。

(1) 債権償却特別勘定の設定

法人の有する売掛金、貸付金その他の債権(以下「貸金等」という。)については、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)により、一定の要件がある場合には、損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることが認められている。

ア 形式基準による算定

貸金等が手形である場合の形式基準による債権償却特別勘定への繰入は、基本通達九-六-五において、債務者について手形交換所において取引の停止処分を受けた日の属する事業年度終了の日において、当該債務者に対して有する貸金等の額のうち、当該事実が発生した日に有していた金額の五〇パーセントに相当する金額以下の金額を当該事業年度において損金経理により処理することができると定められている。

また、各事業年度終了の日までに債務者の振り出した手形が不渡りとなり、当該事業年度分に係る確定申告書の提出期限までに当該債務について取引停止処分があった場合には、当該事業年度において債権償却特別勘定への繰入れを行うことができるとされている。

そして、原告は、本件確定申告に当たり、右形式基準により債権償却特別勘定への繰入れを行っている。

しかしながら、本件手形は、昭和六一年七月一日に不渡りとなり、大成企業は、同月四日に手形交換所において取引停止処分を受けたのであって、事業年度末日においては、未だ不渡りとなっていないのであるから、右形式基準による債権償却特別勘定の設定は認められない。

イ 認定による勘定

認定による債権償却特別勘定への繰入れは、基準通達九-六-四(1)において、債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見込みのない場合等には、当該事業年度終了の日までに所轄税務署長に対してその債権償却特別勘定に繰り入れる金額について認定申請をすることを条件として損金経理により処理することができると定められている。

しかし、原告は、事業年度末日までに右認定申請を行っていないから、認定による債権償却特別勘定の設定は認められない。

(2) 回収不能の貸金等の貸倒れ

回収不能の貸金等の貸倒れについては、基本通達九-六-二において、法人の有する貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額の回収ができないことが明らかとなった場合において、これを貸倒れとして損金経理することができる旨定められているところ、原告は、本件手形の回収に努めるとして、事業年度末日までにその債権の全額を貸倒損失として損金経理していないのであるから、貸倒損失として損金の額に算入することは認められない。

2 本件更正に係る過少申告加算税賦課決定の適法性

本件更正は、右1のとおり適法であり、本件更正により納付すべき税額の基礎となった事実が、本件更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条一項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定は、適法である。

3 重加算税賦課決定の適法性

(一) 本件修正申告に係る重加算税賦課決定

(1) 本件修正申告に係る重加算税は、前記のとおり、本件修正申告のうち完成工事高に加算した本件各工事の工事高五一三一万五〇〇〇円に対応する部分に対して賦課されたものであるところ、本件各工事の完成日は、本件本工事が昭和六一年二月二七日であり、本件補修工事が同年四月一八日である。

そして、原告は、同年二月二七日に本件本工事が完成したとして同日付けの「完成通知書」を庄原土木事務所へ提出するとともに、同年三月一〇日に検査を終え、工事精算金の入金日である同年四月二八日に完成工事として完成工事高に計上した(なお、庄原クレー協業組合からの受注に係る工事(工事高四万三〇〇〇円)についても、本件本工事に含めて同日完成工事として完成工事高に計上した。)。

(2) また、原告は、昭和六一年四月一八日に本件補修工事が完成したとして同日付けの「完成通知書」を庄原土木事務所に提出するとともに、同月三〇日に検査を終え、工事精算金の入金日である同年五月一四日に完成工事として完成工事高に計上した。

(3) 原告は、本件各工事について右のとおり完成工事高に計上していながら、決算整理の時点において未完成工事であるとして振替伝票を起票し、未完成工事高に振り替えた。

(4) このように、原告は、本件各工事をいずれも昭和六一年五月期中に完成し、代金全額を受領した上、いったんはこれを完成工事高に計上していながら、決算整理の時点において、何ら未完成とすべき合理的、具体的な理由が存在しないにもかかわらず、利益調整を図る目的で、未完成工事であるとして本件各工事に係る収入を益金から除いているものであって、原告は、本件各工事が完成していることを熟知していたにもかかわらず、真実を秘匿して振替伝票を起票することにより課税対象となる所得金額をことさら過少に申告したのであるから、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出したことに該当する。

(5) よって、本件修正申告に係る重加算税賦課決定は適法である。

(二) 本件更正に係る重加算税賦課決定

(1) 本件更正に係る重加算税は、本件更正に伴って増加した法人税の本税額のうち、本件決算賞与に係る部分について賦課したものである。

(2) 原告は本件決算賞与を昭和六二年五月期に支給を予定している夏期賞与及び年末賞与の支給に引き当てるために、事業年度末日に従業員に通知していないにもかかわらず、従業員の承知の押印をした支給明細書を作成することにより、本件決算賞与の債務が確定したごとく仮装し、損金の額に算入して確定申告をした。右行為は、課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出したことに該当するから、通則法六八条一項の規定に基づいてした重加算税賦課決定は適法である。

(被告国税不服審判所長)

4 本件裁決の適法性

通則法上、国税不服審判所長の裁決には期間の定めはなく、裁決期間の定めがある場合でも、それは一般に訓示規定と解され、右期間経過後に裁決がなれたとしても、それが違法となるわけではない。

本件審査請求は、現に訴訟として争われていることからも顕著なように、慎重審理を要したものであり、このように事案の難易等により、慎重審理を要するものについて、裁決に至るまでの時間のかかる事案の存することは当然であって、裁決に至るまで長時間を要したというだけの理由で直ちに当該裁決が違法になると解することは相当でないし、当該裁決を取り消しても、迅速な権利救済からかえって遠ざかることとなり、取り消す実益もない。

本件審査請求は、慎重審理の結果、棄却の裁決に至ったものであり、原告の主張は、主張自体失当である。

六  被告らの主張に対する認否及び反論

1(一)  被告らの主張1の冒頭の主張は争う。

(二)  同1の(一)のうち、原告が被告庄原税務署長主張のとおり本件決算賞与の支給を決定したとしてこれを昭和六一年五月期の損金の額に計上したことは認めるが、その余は否認する。

原告は、事業年度末日に行った役員協議会において本件決算賞与の支給を決議し、これに基づいて各従業員別に支給額を算出して従業員代表に示達した上、各従業員から承知の旨の印を得ているから、右決算賞与の支払債務は、事業年度末日に確定したのであり、右決算賞与は、損金の額に算入されるべきである。

そして、原告は、その就業規則で決算賞与の支給、その時期について特に規定していないこと及び土木建築事業を主体とする原告においては、決算時期に決算賞与支給の引き当てとなるべき利益が見込まれても、現実の入金は、次の事業年度にまたがることが多々あることから、本件決算賞与も入金の都合上支給が遅れたため、同年八月の夏期賞与と同時に支給したものである。

(三)  同1の(二)のうち、原告が被告庄原税務署長主張のとおり本件退職給与の支給決議及び本件貸付金等との相殺がなされたとして、本件退職給与を損金の額に計上したことは認めるが、その余は認否する。

原告は、昭和六〇年八月三一日に臨時社員総会を開催し、敬三の取締役辞任を承認するとともに、退職給与を四五〇万円以内で支給する旨の決議をした。一方、原告は、敬三に対し本件貸付金等の債権四一三万〇五九七円を有していたので、昭和六一年五月期において右貸付金等をもって本件退職給与とその対当額で相殺処理したから、本件退職給与の支払債務は、事業年度末日までに確定したのであり、本件退職給与は、損金の額に算入されるべきである。

(四)  同1の(三)の冒頭の事実のうち、原告が被告庄原税務署長主張のとおり債権償却特別勘定の設定により損金の額に算入したことは認めるが、その余は否認する。

(五)  同1の(三)の(1)のうち、原告が形式基準により債権償却特別勘定への繰入れを行ったこと、本件手形が昭和六一年七月一日に不渡りとなり、大成企業が同月四日に手形交換所において取引停止処分を受けたことは認めるが、その余は争う。

(六)  同1の(三)の(2)のうち、原告が本件手形の回収に努めることとして、事業年度末日までにその債権の全額を貸倒損失として損金経理しなかったことは認め、その余は争う。

大成企業は、昭和六〇年一二月頃から極度の経営不信に陥り、昭和六一年五月頃にはほとんどの事業用機械及び備品を売却し、社長も行方不明となり、事業上倒産していたため、本件手形は、事業年度末日に不渡りになることが確実視された。そこで、原告は、貸倒損失として処理することも考えたが、取締役及び幹部職員の協議により債権の回収に努力することとして、本件手形金の五〇パーセントに相当する一五四万四三五〇円を債権償却特別勘定に繰り入れたものである。大成企業は、事業年度末日において、事実上倒産していたのであり、本件手形は、全額が回収できないことが明らかになった場合に該当するから、基本通達九-六-二に従い、貸倒損金として損金の額に算入されるべきである。

2  同2は争う。

3(一)  同3の(一)のうち、本件各工事の完成日は否認し、その余は認める。本件各工事が完成したのは、昭和六一年一〇月一七日である。

(二)  同3の(一)の(2)、(3)は認める。

(三)  同3の(一)の(4)、(5)は否認する。

原告は、一連の本件各工事が二期の事業年度にわたったため、この収益を工事終了後である次年度に申告しようとしたものであり、事実を仮装、隠ぺいしようとしたものではないから、本件修正申告に係る重加算税賦課決定は違法である。

土木建築事業においては、工期が比較的長く複数の事業年度にまたがることが多いため、各事業年度毎に機械的に切断した経理処理をすることができない上、工事請負業者が利益を得るのは、工事代金を受け取ったときではなく、材料費、人件費、諸経費(以下「材料費等」という。)を支払い、すべての決済を終えた後であるという特殊性が存するところ、本件各工事についても同様の特殊性がある。

すなわち、本件補修工事は、本件本工事と同一場所において土砂崩壊が生じたため、その補修工事として追加発注を受けたものであり、実際には両者は継続して行われたものであるから、これらを判然と区別することはできない。また、原告が本件本工事の材料費等の支払を完了したのは昭和六一年一〇月一七日である。

このため、原告は、本件各工事を継続した一体のものとして経理処理し、材料費等すべての支払を終えた後に本件各工事が完成終了したものとして申告しようとしたものであり、このようにしても原告にとっては、何らの利益にもかならず、ただ、収益の帰属年度について被告庄原税務署長との間に見解の相違があるにすぎないのであって、原告は、事実を隠ぺいしたり、仮装したことはない。

(四)  同3の(二)の(1)は認める。

(五)  同3の(二)の(2)のうち、本件決算賞与を損金の額に算入して確定申告したことは認めるが、その余否認する。

4  同4は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の(一)(本件確定申告、本件修正申告、本件更正等の経緯)は全当事者間において争いがない。

二  まず、被告庄原税務署長の本案前の主張について判断する。

1  修正申告に係る過少申告加算税賦課決定の取消しを求める訴えは、通則法一一五条一項、行政事件訴訟法八条一項ただし書の規定により、これに対する異議申立てについての決定を経た後でなければ提起することができない。そこで本件修正申告に係る過少申告加算税賦課決定につき異議申立てがなされたかどうか検討するに、請求原因1の(二)のうち、原告が本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定に対し審査請求をしたことを除くその余の事実は全当事者間において争いがなく、右争いのない事実に成立に争いがない丙第一、第二号証の各一ないし三、第三号証の一、二、第四号証及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、国税不服審判所長に対し昭和六二年一月二二日付け審査請求書(丙第一号証の一ないし三)を提出したこと、右審査請求書には、本件修正申告に係る加算税賦課決定中、重加算税の賦課決定部分を取り消す旨の裁決を求める旨記載されていること、しかし、本件修正申告に係る重加算税賦課決定については、異議申立てをしないで、審査請求をすることができる場合(通則法七五条四項)に該当せず、同条一項の規定により異議申立てをすることを要し、右審査請求は、不適法であったので、原告は、改めて、原処分庁である被告庄原税務署長に対し同月二六日付け異議申立書(丙第二号証の一ないし三)を提出し、右申立書に係る異議申立ては、その後、通則法八九条により審査請求とみなされた(合意によるみなす審査請求)こと、右異議申立書には、本件修正申告に係る加算税賦課決定中、重加算税の賦課決定部分を取り消す旨の決定を求める旨記載されていることが認められる。

右認定のとおり審査請求書とみなされた右異議申立書の記載内容に照らすと、原告は、本件修正申告に係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定のうち重加算税賦課決定のみについて取消しを求め、過少申告加算税賦課決定については、取消しを求めていないことが明らかである。仮に、右みなす審査請求において、前記昭和六二年一月二二日付け審査請求書が有効であるとしても、右審査請求書の記載内容は、右異議申立書と同一であって、右過少申告加算税賦課決定につき取消しを求めていないことが明らかである。他に、原告が右過少申告加算税賦課決定に対し適法な不服申立てをしたことを認めるに足りる証拠はなく、右不服申立てを経由しないことにつき正当な理由があることについては、何ら主張立証がない。

2  原告は、過少申告加算税賦課決定については、不服申立ての手続を前置する必要はないと主張するが、通則法六五条、七五条一項一号、一一五条一項に照らし、過少申告加算税賦課決定が国税に関する処分であって、異議申立手続を経るべきことは明らかであり、右主張は採用の限りでない。

また、原告は、通則法一一五条一項二号の規定により不服申立ての手続を経由しなくても適法であると主張するが、前記認定の課税処分の経緯によれば、本件修正申告に係る過少申告加算税賦課決定の取消しを求める場合が同号に定める場合に該当しないことは明らかであり、右主張も採用できない。

3  したがって、本件訴えのうち、右過少申告加算税賦課決定の取消しを求める部分は、通則法一一五条一項及び行政事件訴訟法八条一項ただし書に違反し、不適法である。

三  次に、本件更正の適法性について判断する。

本件決算賞与一二七七万円、本件退職給与四一三万〇五九七円及び本件手形に係る債権の五〇パーセントに当たる一五四万四三五〇円を損金の額に計上した原告の本件確定申告につき被告庄原税務署長が右各損金算入を否認する旨の本件更正をしたことは、原告と同被告間において争いがない。

そこで、以下、本件更正の適法性について判断する。

1  本件決算賞与

(一)  原告が被告らの主張1の(一)のとおり本件決算賞与の支給を決定したとして、これを昭和六一年五月期の損金の額に計上したことは、原告と被告庄原税務署長との間において争いがない。そこで、右損金算入が許されるか否か検討する。

成立に争いがない乙第六ないし第八、第二三号証、証人伊藤彰の証言により真正に成立したものと認められる乙第二、第四号証、証人佐藤誠の証言により真正に成立したものと認められる乙第三、第五号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二二号証、証人伊藤彰、同佐藤誠の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。

(1) 原告の代表取締役社長三吉敬次郎、常務取締役藤本栄(以下「藤本常務」という。)は、昭和六一年五月期の決算時点で利益が出たので、過去の約二倍の額の賞与を支給することとした(藤本常務は、原告の昭和六一年五月期の法人税調査をした係官(以下「係官」という。)の事情聴取に対し、本件決算賞与につき、具体的金額は、従業員の松尾安之(以下「松尾」という。)が勤務状態、出勤率等を勘案して算出し、社長が決定したが、各個人へ具体的金額を通知した詳しい日付は知らないし、社長もわからないと思う旨答述している。)。

(2) 原告の経理担当者である藤原淳子(以下「藤原」という。)は、右決定を受けて藤本常務の指示により本件決算賞与に係る期末整理伝票を起票し(藤原は、係官に対し、右起票の時期はよく憶えていないと答述している。)、原告は、事件年度末日付けで本件決算賞与の額を未払金に計上した。

(3) 藤原は、藤本常務に指示されて、本件決算賞与について、従業員個人別の支給決定額を記載し、各従業員の氏名欄に当該従業員の印を押捺し、「上記の通り決定額を支払います。」との文言を記載し、原告の代表取締役の記名押印をした支給明細書(以下「支給明細書」という。)を作成したが、支給明細書は、従業員には、見せておらず、従業員の印は、藤本常務から各従業員に連絡しておいたので、押印しておくよう指示され、保管していた従業員の印鑑を押したものである。

(4) 原告会社の就業規則では、賞与につき、年二回(八月、一二月)在籍者に対し、勤務成績を評定し、営業成績を勘案して支給することができる旨定められており(六九条)、原告会社では、従業員に対し例年八月一〇日過ぎに夏期賞与が、一二月下旬に年末賞与が支給されていた。

ところで、原告は、本件決算賞与のうち、昭和六一年六月三〇日に退職した松尾と同年七月一一日に退職した従業員二名との三名分合計三〇万円は、同年七月二三日に支給しているが、他の従業員に対する分は、例年の夏期賞与の支給時期に相当する同年八月一一日に本件決算賞与の未払金を取り崩してその約半額に当たる六二四万五〇〇〇円を実現し支給し、残りの約半額六二二万五〇〇〇円については、同年九月二五日に支給したとして源泉徴収に係る所得税等を差し引いた五六九万五七七円を原告名義の普通預金口座から引き出した上、同日再び同額を同口座に預け入れて預り金として経理し、現実には、同年一二月下旬の年末賞与の支給時期に右預り金を取り崩して年末賞与と併せて支給している。なお、例年の夏期賞与の支給時期に相当する昭和六一年八月一一日には、本件決算賞与の約半額に当たる前記六二四万五〇〇〇円以外には、賞与は、支給されていない。

原告の従業員は、本件決算賞与が支給されることを原告から聞いておらず、昭和六一年八月一一日に賞与が支給されることも、支給日の数日前に知ったのであり、賞与の額についても賞与を受け取ったとき明細書をみて初めて判明したのであって、同年五、六月に同年八月に賞与が支給されるということは聞いていない。したがって、従業員は、同年八月一一日に支給された賞与は、例年支給されている夏期賞与であると認識しており、本件決算賞与の半額を右のように預預り金として処理している事実は承知していなかった。

(5) 支給明細書によると、本件決算賞与の計算期間は、昭和六〇年一二月一日から昭和六一年五月三一日となっており、大部分の従業員等の各人別支給額は、前年分の夏期及び年末賞与の合計額を上回る額となっているのに対し、昭和六一年六月末に退職した松尾に対する支給額は、前年の夏期賞与と同額であり、同年七月に退職した従業員二名に対する支給額も、松尾と同様他の従業員に比べ、半額以下の小額となっている。

(6) 原告の関与税理士である一橋次郎は、昭和六一年六月二一日現在の資料に基づいて、同月二三日に原告の同年五月三一日現在の本件試算表(乙第七号証)を作成しているが、同試算表の「経費未払金」には、六六四七万六八八六円が計上されているのに対し、本件確定申告書に添付されている原告の昭和六一年五月期の貸借対照表の「経費未払金」には、右六六四七万六八八六円に本件決算賞与の額である一二七七万円を加算した七九二四万六八八六円が計上されているのであって、本件試算表には、本件決算賞与の額は、計上されていなかったものである。

(二)  一般に、使用人に対する賞与は、就業規則、労働協約等によりその支給時期、支給額の計算根拠が明示されている場合を除き、賞与を支給するか否か、また、その支給額については、専ら使用者側が決定するものであって、被使用者側が労働の対価である賃金のほかに、雇用契約に基づいて労働の対価として当然に請求し得るものではなく、使用者側が各人別の支給額を決定し、これを被使用者側に通知したときに初めて被使用者側に債権が生じ、使用者に債務が発生するものと解される。

また、法人税法上、国内法人の各事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額を当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入し得るためには、当該事業年度終了の日までに債務が確定していることが必要であり(同法22条三項)、当該事業年度終了の日までに債務が確定しているとは、当該事業年度終了の日までに(1)当該費用に係る債務が成立しており、(2)当該債務に基づいて具体的な給与をすべき原因となる事実が発生しており、(3)当該債務の金額を合理的に算定することができるものであるとの各要件をすべて充足する場合をいうものと解するのが相当である。

これを本件決算賞与についてみるに、前記(一)の(1)認定のとおり、本件決算賞与は、昭和六一年五月期の決算の状況をみて利益が出たことが動機となって決定されたものであること、前記(一)の(6)認定のとおり、本件試算表には、本件決算賞与は計上されていないこと及び期末整理伝票や本件試算表の作成時期等を考慮すると、本件決算賞与支給の決定が事業年度末日までに行われたものとは到底認められず、本件試算表が作成された昭和六一年六月二三日以降において、右試算表等により昭和六一年五月期の決算の状況が判明した後に、原告が利益調節を意図して決定したものと推認せざるを得ない。したがって、各人別の支給額を記載し本件支給明細書も事業年度末日までに作成されたものでないことが明らかである。

また、前記認定によれば、原告は、本件決算賞与の支給を従業員に通知していないことが認められる。

右の点につき、原告は、事業年度末日の役員協議会で本件決算賞与の支給を決定した上、従業員に知らせた旨主張し、証人藤原淳子の証言中には、右主張に添う部分がある。しかし、右役員協議会の議事録など右決定を裏付ける資料はなく、また、前記(一)の(1)、(3)認定のとおり、藤原は、藤本常務から従業員に連絡しておいたと言われて本件支給明細書に従業員の押印をしたが、藤本常務は、従業員に知らせた詳しい時期は記憶にないと答述しており、この点に関する藤本常務の供述はあいまいであって、右証言は信用し難い。他に右主張事実を認めるに足りる証拠はないのであって、原告主張のような事業年度末日における支給決定及び従業員への通知の事実はなかったものと認めるほかない。

以上によれば、本件決算賞与の債務は、事業年度末日までに認定していないものと認められる。

さらに、前記認定のとおり、従業員は、昭和六一年八月に受領した賞与を決算賞与ではなく、例年、同時期に支給されている夏期賞与と認識していること、その金額についても支給されて初めて知ったこと、本件決算賞与の半額を預り金として処理していることを全く知らないこと、本件決算賞与が例年の夏期及び年末賞与の支給時期に支給され、本件決算賞与の約半額に当たる六二四万五〇〇〇円以外に夏期賞与を支給した事実がないことなどの事実に照らすと、本件決算賞与は、実質的には、昭和六二年五月期に支給を予定している夏期及び年末賞与の引き当てを決算賞与に仮装したものと認めるのが相当である。

そして、前記認定のとおり、本件支給明細書では、その計算期間の終期が事業年度末日となっているが、昭和六一年六月末及び七月に退職した従業員三名に対する本件決算賞与の額が他の従業員に比べ半額以下になっているのであって、これは、事業年度末日後に右退職の事実を考慮して支給額が決定されたことを示すものであり、右のような支給額の開差を生ぜしめる決定がなされたことは、本件決算賞与の実質が夏期及び年末賞与の引き当てであることを物語るものにほかならない。

(三)  以上によれば、本件決算賞与は、損金の額に算入することはできないものというべきである。

2  本件退職給与

原告が被告らの主張1の(二)のとおり本件退職給与の支給決議及び本件貸付金等との相殺がなされたとして、本件退職給与を損金の額に算入したことは原告と被告庄原税務署長との間において争いがない。そこで、以下、右損金算入が許されるか否か検討する。

法人税法上、役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、社員総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする(基本通達九-二-一八)ものと解されるところ、原告は、昭和六〇年八月三一日開催の臨時役員総会において敬三に退職給与を四五〇万円以内で支給する旨の決議をしたと主張し、これに添う証拠として甲第四号証(右臨時社員総会議事録。以下「甲議事録」という。)を提出している。

しかし、前掲乙第七号証、成立に争いのない乙第一、第一三号証及び証人伊藤彰及び同佐藤誠の各証言によれば、原告が昭和六〇年九月九日広島法務局庄原支局に提出した敬三辞任の変更登記申請書に添付された右臨時社員総会議事録(乙第一三号証。以下「乙議事録」という。)には、第1号議案取締役変更の件として、同人が辞任し、後任を選任しないことに決定した旨、第二号議案定款変更の件として定款変更を承認可決した旨記載されているのみで、同人に退職給与を支給する旨の記載はないこと、甲議事録には、乙議事録の記載事項に加えて、敬三に対する退職給与を四五〇万円以内で支給すること、支払方法等は、代表取締役三吉敬次郎に一任する旨の記載があること、原告は、昭和六一年一〇月から同年一二月まで行われた税務調査の際、社員総会議事録を係官に対し提出しておらず、審査請求後に初めて提出したこと、甲、乙両議事録を比較検討すると、甲議事録は、当初作成された乙議事録中の第一号議案の記載と第二号議案の記載との間の空白部分に後から退職金支給決議に関する記述を書き加えて作成した形跡があること、本件試算表には、本件退職給与の額は計上されていないことが認められる。

右認定の事実に照らすと、甲議事録は、審査請求ないし訴訟対策用に後日作成されたものである疑いが濃厚であり、右臨時社員総会において退職給与を支給する旨の決議はなされていないものと認められる。

そして、成立に争いのない乙第一一号証、証人藤原淳子の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、事業年度末日付けの振替伝票で、敬三に対する本件貸付金等の金額と本件退職給与の額四一三万〇五九七円とを相殺処理したことが認められる。

右によれば、本件退職給与は、事業年度末日までに債務が確定していないものと認められ、右相殺処理をもって原告が敬三に対して有している本件貸付金等を償却することにより、本件貸付金等相当額を本件退職給与として損金の額に算入したものにほかならないものと認めるのが相当である。

したがって、本件退職給与を損金の額に算入することはできないものというべきである。

3  本件手形に係る債権の貸倒損失

被告らの主張1の(三)のうち、原告が被告庄原税務署長主張のとおり債権償却特別勘定の設定により大成企業から受領していた同社振出の本件手形に係る債権の五〇パーセントに相当する金額を損金の額に算入したことは原告と同被告との間において争いがない。

そこで、以下、右損金算入が許されるか否か検討する。

(一)  債権償却特別勘定の設定

法人の有する貸金等については、基本通達により一定の要件がある場合には、損金経理により債権償却特別勘定に繰り入れることが認められている。

(1) 形式基準による債権償却特別勘定の設定

貸金等が手形である場合の形式基準による債権償却特別勘定への繰入れは、基本通達九-六-五において、債務者について手形交換所において取引の停止処分を受けた日の属する事業年度終了の日において、当該債務者に対して有する貸金等の額のうち、当該事実が発生した日に有していた金額の五〇パーセントに相当する金額以下の金額を当該事業年度において損金経理により処理することができると定められている。また、各事業年度終了の日までに債務者の振り出した手形が不渡りとなり、当該事業年度分に係る確定申告書の提出期限までに当該債務者について取引停止処分があった場合には、当該事業年度において債権償却特別勘定への繰入れ(形式基準による債権償却特別勘定の設定)を行うことができるとされている。

そして、原告が本件確定申告において右形式基準より債権償却特別勘定への繰入れを行っていること、本件手形が昭和六一年七月一日に不渡りとなり、大成企業が同月四日に手形交換所において取引停止処分を受けたことは原告と被告庄原税務署長との間で争いがない。そうすると、事業年度末日においては、未だ不渡りとなっていないのであるから、右形式基準による債権償却特別勘定の認定は認められない。

(2) 認定による債権償却特別勘定の設定

認定による債権償却特別勘定への繰入れは、基本通達九-六-四(1)において、債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見込みのない場合等には、当該事業年度終了の日までに所轄税務署長に対してその債権償却特別勘定に繰り入れる金額について認定申請をすることを条件として損金経理により処理することができると認められている。

しかし、弁論の全趣旨によれば、原告は、事業年度末日までに右認定申請を行っていないことが認められるから、認定による債権償却特別勘定の設定は認められない。

(二)  回収不能の貸金等の貸倒れ

回収不能の貸金等の貸倒れについては、基本通達九-六-二において、法人の有する貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額の回収ができないことが明らかとなった場合において、これを貸倒れとして損金経理することができる旨定められている。

原告は、大成企業は、事業年度末日において事実上倒産していたのであって、本件手形は、全額回収できないことが明らかであったと主張するので、検討するに、原告が本件手形の回収に努めるとして、事業年度末日までにその債権の全額を貸倒損失として損金経理していないことは原告と被告庄原税務署長との間で争いがない。

そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六、第七号証、証人藤原淳子の証言及び原告代表者本人尋問の結果によると、大成企業は、原告の下請け業者であり、原告は、大成企業に対し生コン等を売却し、昭和六一年一月分ないし四月分の売却代金の支払のため本件手形の振出を受けたこと、原告は、同年六月二七日に大成企業から同年五月分の生コン代等として手形を受領していること、原告は、同年六月にも大成企業と生コンとの取引をしていることが認められる。

右認定によれば、原告は、昭和六一年六月まで大成企業と取引を継続しており、同年五月当時には未だ倒産していなかったものと認められるのであって、この事実に、原告が前記のとおり本件手形の回収に努めるとして貸倒損失の損金経理をしていないことを併せ考えると、本件手形は、昭和六一年五月期において回収不能の状態にはなったものとみとめるのが相当である。

したがって、これを貸倒損失として損金の額に算入することは認められない。

4  以上のとおりであって、本件決算賞与、本件退職給与及び本件手形に係る債権(貸倒損失)は、いずれも昭和六一年五月期の損金の額に算入することができないものであって、右損金算入を否認した本件更正には、違法な点はなく(原告は、本件更正のうち右損金算入以外の点については争っていない。)、適法であると認められる。

四  右のとおり、本件更正は適法であり、本件更正により納付すべき税額の基礎となった事実が、本件更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由がある場合に該当しないものと認められるから、同更正に係る過少申告加算税賦課決定も適法であると認められる。

五  次に、重加算税賦課決定の適法性について判断する。

1  本件修正申告に係る過少申告加算税賦課決定

被告らの主張3の(一)の(1)のうち本件各工事の完成日を除くその余の事実及び同(2)、(3)の各事実は原告と被告庄原税務署長との間で争いがない。

右争いのない事実に前掲乙第五号証、成立に争いがない乙第二一号証、証人佐藤誠の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証及び原告代表者本人尋問の結果によると、本件本工事は、山の切り取りをして道路の拡幅をする道路改良工事であり、原告は、昭和六一年二月二七日本件本工事の請負契約に係る工事を全部完成し、同年三月一〇日に検査を終えて引渡しを完了し、同年四月二八日に工事精算金の支払を受けたこと、その後、長雨の影響で右工事箇所にクラックができ、土砂崩壊の危険が生じたので、原告は、その補修工事を本件本工事に係る契約とは別の契約により受注したが、これが本件補修工事であり、原告は、同年四月一八日に本件補修工事の請負契約に係る工事を全部完成し、同年四月三〇日に検査を終えて引渡しを完了し、同年五月一四日に工事精算金の支払を受けたことが認められる。

右認定によれば、原告は、本件各工事をいずれも事業年度末日までに完成して、その引渡しを了している(なお、工事代金も全額受領済みである。)これが認められるから、本件各工事の請負契約による収入は、昭和六一年五月期に発生したものとして益金に算入すべきである(基本通達二-一-五)。

ところで、原告は、土木建築事業においては、当該工事の完成、引渡しと代金、材料費等の決済が必ずしも同一事業年度内に行われないこと等を理由に、本件各工事代金を未完成工事高に振り替え益金から除いた経理処理の合理性を主張するものと解される。しかし、本件各工事に係る材料費等の支払が完了したのが昭和六二年五月期であるとしても、材料費等を昭和六一年五月期の損金に計上すれば足りることであり、これを理由に完成、引渡しの完了した本件各工事の代金を右期の益金から除くことは許されないものというべきである。

そして、前掲乙第三号証によると、原告会社では、庄原土木事務所から受注した工事については、従来から、藤原が藤本常務から指示されて完成通知書、請求書を同事務所に提出し、その後、工事代金が振り込まれると、その時点で完成工事高に計上するという経理処理していたことが認められる。

以上によれば、原告は、本件各工事につき完成通知書を提出するとともに検査を受けたことにより工事が完成し、引渡しを了していた(なお、代金も全額受領している。)ことを熟知していたにもかかわらず、真実を秘匿し、故意に未完成工事であるとして振替伝票を起票することにより、課税の対象となる所得金額をことさら過少に申告したのであるから、右行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことに該当する。

2  本件更正に係る重加算税

被告らの主張3の(二)の(1)の事実及び(2)のうち本件決算賞与を損金の額に算入して確定申告したことは原告と被告庄原税務署長との間で争いがない。

前記三の1の(一)の認定の事実によれば、原告は、本件決算賞与を昭和六二年五月期に支給を予定している夏期賞与及び年末賞与の支給に引き当てるために、事業年度末日に従業員に対し本件決算賞与を支給する旨通知していないのに、従業員の承知の旨の押印をした支給明細書を作成することにより、本件決算賞与の債務が確定したかのように仮装し、これを損金の額に算入して確定申告をしたことが認められる。右行為は、課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことに該当する。

3  まとめ

以上によれば、本件修正申告及び本件更正に係る各重加算税賦課決定は、いずれも通則法六八条一項所定の要件を具備しているものと認められるので適法というべきである。

六  最後に、本件裁決の適法性について判断する。

原告は、本件裁決につき、十分な審理をすることなく、裁決まで二年以上を要したから違法である旨主張するが、審査請求の審理に長期間を要したからといって当該裁決が直ちに違法となるものではなく、また、十分な審理をしなかったとする点についても、裁決の違法を基礎づける具体的な事実の主張立証がなく、原告の右主張は、失当である。

七  以上によれば、本件訴えのうち、本件修正申告に係る過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める部分は、不適法であるから却下し、原告のその余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 野島香苗 裁判官 畑山靖)

別表

課税処分経過表(昭和六一年五月期)

<省略>

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